こんにちは。
喜満満猫です。
いつも訪れていただき、本当にありがとうございます。
【城崎の花火《46》】から続きます。
『己書ってご存知ですか?』
作業療法士の尚子先生に、聞いてみました。
『先生、己書ってご存知ですか?』
『ううん、知らないけど、…書道かな?』
『はい、書の流派のひとつ、といいますか。
少し変わっていて、癒やし文字で…。
絵のような、字のような…。』
己書を言葉で説明しようとすると、
どうしてもこんな表現になってしまいます。
作品をひと目見てもらえば、
その風情はすぐわかってもらえるのですが…。
『へえ〜、そんなのあるんだ。』
先生は、興味深そうに首をかしげました。
己書とリハビリ
まだ己書は誕生して10年ほどですし、
師範も当時全国に6〜700人ほどしかいませんでした。
まだまだ周知されていない、新しい文化のひとつです。
わたしは、先生にお願いしました。
『先生、実はわたし、11月に己書の師範試験を受ける予定なんです。
リハビリのひとつとして、己書の練習をしてもいいですか?』
先生は、ぱっと表情を明るくして、
『いいよ!大丈夫。え〜、どんなものなの?書いて書いて。』
わたしも、すごくうれしくなって、
『ほんとですか!?うれしい!書きます!』
2人とも笑顔が弾けました。
先生ははっと顔を引き締めて、
『だけど、無理はだめですよ?』
とにっこりされました。
こころを込めて
わたしは、お世話になっているお礼に、
先生に、お好きな言葉か、お名前をお書きしようと思いました。
先生に、おうかがいしたところ、
『好きな言葉…好きな言葉ねぇ。』
しばらく上を向いて考えていらっしゃって、
『うーん……浮かばないから、
わたしの名前書いてくれる?
和尚さんの尚で、【尚子】なのよ。』
『わかりました!』
久しぶりの己書
わたしは、リハビリテーション室から、ひとり病室に戻りました。
そしてすぐに、入院したときに持ってきていた、
筆ペンと画仙紙ハガキを取り出しました。
ベッドにテーブルをセッティングして、画仙紙ハガキと向き合いました。
久しぶりに握る筆ペン。
長いこと、ずっと離れていたような感覚でした。
インクをぎゅっと押して、筆先ににじんできたのを確認して。
そっと、書きはじめました。
己書を書ける喜び
先生のお名前、尚子という字を、
円相を書いたあと、その上に重ねて書いていきます。
右手の中指、薬指、小指の鈍い麻痺のせいか、
力は入らず、ぐらぐらしてしまう。
でも、一生懸命、こころを込めて。
時間がかかっても、ふらふらの字でも。
今、自分にできる、1番の文字を。
『尚子』と書き上げました。
涙がじんわり、出てきました。
こんなにも…己書が書けることに喜びがあふれる。
こんなにも…うれしいなんて。
ずいぶんと手術前より、手は落ちてしまいましたが、それよりも何よりも。
己書を書ける喜びに、
じんわりと、ひたり続ける喜満満猫でした。
【城崎の花火《48》】に続きます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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